サプリメント販売などは混合診療になりますか

現在の日本では、多くの医師や患者さんが「混合診療禁止」という日本独自のルールの中で、治療困難な病気に挑んでいます。しかし本来の医療を考えれば、現状の保険診療だけで完治が難しい病気に対しては、標準的な治療法だけではなく、現状の治療にプラスして、少しでも治癒・改善の望みがある先端検査や先進的な治療を受けたい、と思うのが患者さんの本音だと思います。そこで私たち日本先進医療臨床研究会では、そんなあたり前の姿を日本の医療にも実現させるべく、「患者志向」の統合医療的、補完医療的な医療サービスによる「治療・症例研究」を推進しています。

そこで、当会の治療・症例研究は「混合診療に抵触しないのでしょうか?」とのご質問を頂きました。結論を先に言いますと、当会の多くの「治療・症例研究」は混合診療にはなりませんが、点滴や注射など明らかに診療行為を保険診療と同時に行うと「混合診療」となる場合があります。

混合診療の禁止は違法?適法?

この問題に関して、かつて「混合診療の禁止は違法である!」と、国を相手に訴えを起こした腎ガン治療中の患者さんがいました。自身の腎ガンに対して手術を行い、手術後にインターフェロン治療を行いましたが、治療が奏功せずガンが進行して骨に転移してしまいました。そこで、保険未承認の「活性化自己リンパ球移入療法」の治療を、インターフェロン治療と同時併用で行いました。ところが、その後に医師から「保険適用の治療法と適用外の治療を併用して行うのは国が禁じている混合診療にあたるので、保険外のリンパ球移入療法は続けられない」と言われます。そして本来、保険適用で3割負担であったはずのインターフェロン治療の費用まで、全額自己負担になると告げられ、全額を請求されました。

「これは違法では?」と、裁判に訴えたガン患者さんは、2007年11月6日東京地方裁判所の第一審で「混合診療の禁止は違法(健康保険法に明確な記述がない)」と勝訴しました。ところが国の上告によって2009年9月の東京高等裁判所では逆転敗訴し、2011年10月25日に最高裁でも「安全確保や財源の制約などから、保険適用の範囲を合理的に制限することはやむを得ない」として「混合診療禁止は適法」と判断され、ガン患者さんの敗訴が確定しました。ただし最高裁では裁判官4人が国に制度の運用改善などを求める個別意見を付けた。裁判長を務めた大谷裁判官は「法構造が甚だ分かりにくい」「場合によっては患者に過剰な規制と映る」と批判。「医療の高度化は目覚ましく(制度の)迅速で柔軟な運用が期待される」と、先進的な医療を素早く保険外併用療養費制度の対象にするよう求めた。田原睦夫裁判官も「海外で安全性が確認された新薬の早期使用は患者が切望している」と指摘した。

「混合診療」とは何か?

実は、「混合診療の禁止は問題では?」との議論はこれ以前からありました。例えば内閣府の規制改革論議の総合規制改革会議の席上で「混合診療はなぜ解禁できないのか?」、「法律のどこに根拠があるのか?」という委員たちの質疑に、厚労省の官僚たちが必死で対応している姿がありました。(2003.3.17総合規制改革会議第2回アクションプラン実行WG議事概要)そして「混合診療禁止の法的根拠」という点に関して1984年の健康保険法の改正において「特定療養費制度(健康保険法第八十六条・保険外併用療養費)」を設けたことで、厚労大臣の定める「評価療養」「患者申出療養」「選定療養」に該当しない保険適用外の診療との併用については、「保険給付の対象とならない」と決められました。そしてこれが政府や厚生労働省が指す「混合診療」であり、「混合診療の禁止」の方針と、現在の法的根拠となっています。

日本の国民皆保険制度では、健康保険などの公的医療保険で診察することができる診療の範囲が限定されており、保険適用の診療の一部または全部が保険で賄われます。保険で認められていない診療を行う場合を自由診療または自費診療と呼びますが、保険適用の診療と保険適応外診療を混合して行う「混合診療」は保険給付が行われず、診療の全てが自己負担となります。原則として保険診療と保険適応外診療の併用は認められていませんが、一部保険適応の診療と適応外の診療を併用できる場合があり、保険外併用療養制度と呼びます。

現在の保険医療制度の中で認められている「混合診療(保険外併用療養費)」は、(1)「先進医療」「患者申出療養」など新しい診断や治療で普及度が低い医療と、(2)入院時や通院時などで患者さんの快適性に関わる「選定療養」の2つに大別されます。(1)の先進医療や患者申出療養で、有効性や普遍性が認められたものは保険適用するのが筋です。そして多くの患者さんが高度な医療を保険で受けられるようにすべきです。(2)の患者さんの快適性に関するものはそもそも診療行為ではありません。したがってその部分で患者さんから費用を徴収しても、もともと「混合診療」には該当しないと理解すべきです。

では「混合診療」とならない医業行為は何か?

平成16年12月の「規制改革・民間開放推進会議」において「療養の給付と直接関係のないサービスについては保険診療との併用の問題が生じないことを明確化する」という答申がなされ、平成17年9月1日付(保医発第0901002号)で厚生労働省保険局より通知された文書に、その答えが書いてあります。

上記通達文書の中で、費用徴収する場合の手続について「療養の給付と直接関係ないサービス等については、社会保険医療とは別に提供されるものであることから、もとより、その提供及び提供に係る費用の徴収については、関係法令を遵守した上で、保険医療機関等と患者の同意に基づき行われるものであるが、保険医療機関等は、その提供及び提供に係る費用の徴収に当たっては、患者の選択に資するよう次の事項に留意すること」として、費用徴収するサービス等の「院内の掲示」「患者への説明と同意」、「個別の領収書を発行」の3点に注意すること、と記載されています。そして、上記通達で「療養の給付と直接関係ないサービス等とはいえないもの」として、(3) 新薬、新医療機器、先進医療等に係る費用(ア薬事法上の承認前の医薬品・医療機器、イ適応外使用の医薬品、ウ保険適用となっていない治療方法 等)と記載されていますので注意が必要です。保険給付の制度上、禁止されている「混合診療」となるのは、「同一の医療機関内で同じ患者さんが、同じ病気に対して、保険適用の診療と適用外の診療を、同時に行った場合」です。そして、これに違反した場合、当該医療機関は保険給付が行われないため、結果として患者さんの「全額自己負担」になってしまうのです。

つまり、患者さんが別々の医療機関に通うのは「混合診療」ではありません。また別の病気で(別の日にカルテを分けて)の診療は「混合診療」ではありません。また、医療機関内で販売されるサプリメントやスキンケアなど物品は、そもそも診療行為ではないので「混合診療」ではありません。

★混合診療、サプリメント・スキンケア等の院内販売などで、不明な点がある方は当会までご連絡ください。